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【で、母ちゃん何だって?】
「そんなッ……!!」
【お、おい…どうしたんだ?!】
和んだのも束の間だった。
手紙を読み始めた天音の表情が、やにわに険しくなった。
眉間には深く皺が刻まれ、瞳は再び翳りを宿す。
【なんて、書いてあったんだ?】
気遣って問いかけた瞬間、天音の纏う気配――霊力が、まるで燃え盛る業火さながらにビリビリと夜の空気を揺らした。
まさに豹変。
いまの天音には、その形容がぴったりだった。
「ここを見て」
背中合わせで寄り添うようにしていた彗は、肩越しに乗り出して手元の手紙を覗きこむ。
【なんて書いてある?】
「母さん、やっぱり知ってたんだ……自分が死ぬって」
彗は何も言わず、ただきつく天音の頭を抱き締めた。
『天音、お前がこれを見つけた時、恐らくもう私はこの世に居まいだろう。この手紙はそのつもりで書いた。急ぎゆえ少しばかり強引だが、堪忍しておくれ。
天音、済まぬ。私の不手際でお前の存在が嗅ぎ付けられてしまった。悔しいが、もう力が足りぬ。
お前を隠してやれるほど、私も長くないようだ。なので今、お前に渡るだろうこの書簡を以て封じを解くことにする。』
【封じ、って何だ?】
「とある事情で、私には封印が掛けてあるの。今、その封印が解かれた」
【って言われてもよォ、よく分からねぇよ…】
封印がなにかという詳細には答えず、天音は再び書簡へと目線を滑らせる。
『それがまず、一つ目だ。そして二つ目。お前は母の私よりも強い、だが守る術を持っていない。だからその補いに私の式を遺していくことにした。
私の道具の中に、白木の小匣があるだろう』
「白木の小匣、これね」
手紙の指示通り、目的の物を見つけた天音は、小匣を慎重に取りだした。
「なに、入ってるんだろ?」
式と書いてあったので、恐らくは呪物の類いだろう。
匣を振ってみると、中でカタカタと硬質な音がした。
「軽いけど、なんだろこれ…」
かぱり。
小匣を開いた瞬間、匣の中身とバッチリ目が合ってしまった天音は、忽ちに石化した。
【天音?】
「彗……これ、動物の骨、よね?」
昏(くら)く、虚ろな眼窩。
白木の小匣の中には、拳より少し大きい獣の頭骨が、どこか厳かに納まっていた。
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