3話:母からの手紙――匣の中

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【チッ……っ】 彗は終ぞ構ってくれない天音に臍を曲げ、眉間に渓谷並みの皺を寄せて天井にへばりついていた。 整っているが、ただでさえ怖い顔だ。 怨めしげなオーラも手伝って、かなり凶悪な表情である。 殺気満ち満ちた彼の心情を示すように、卓上に置いていた紙コップが細かに振動し、中身が細かな波紋を描き始めていた。 かぽ、かぽん。 カタ、ミシミシ、ミシミシミシ…ッ 紙コップは、見えない手に握り潰されるようにどんどん形が歪み、跳ね散った液体がフローリングを濡らしていく。 そして――遂に彗の堪忍袋が、ぶちりと不穏な音を立ててキレた。 当然、紙コップは原型なく潰れ、床に飛散した中身は強烈な熱気と共に沸き上がり即座に掻き消えた。 【邪魔してんじゃねぇよ…たかが動物の骨ごときの癖に!!】 カツーン、と勢いよく匣ごとふっ飛んで、部屋の入り口でスピンする白い固形物。 彗はといえば肩を上下させ、どうだと言わんばかりの表情で入り口を睨みつけている。 とんでもない彼の暴挙に、天音は一気に蒼白した。 「っちょ、ちょっと彗! アンタいきなりなにするの!? 呪物(マジモノ)投げるなんてホント信じらんない!」 【知るかっ。大体な、俺は動物なんか大っっ嫌えなんだよ!!】 「抑えて、抑えてってば……でも、好き嫌いが解るってことはさ、失くした記憶…少しは思い出せたんじゃない?」 一瞬だけ考える素振りをしてから、彗は大袈裟に柏手を打って頷いた。 【成るヘソ。……な、な、俺さぁ、地味に凄くね?】 「……だね」 乗せて煽てれば機嫌を持ち直すのが、単純バカな彗だ。 だが、ほんの少しでも記憶が戻ってよかったと天音は内心で密かに溜息をつく。 今回に限っては、他の事に気が向いていたせいか思考を読まれることもなく、天音は再び小さく安堵の溜息をついた。 しかし、それも束の間の安息だったらしい…。 §
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