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【あ゛っ!?】
焔を纏って現れたのは、なんと――屈強な体躯の巨大な狼であった。
火影に輝く、その毛並みは鮮烈な白銀。
間髪入れず、屈強な前脚に鷲掴まれた彗は、抵抗も忘れて鼻先すれすれに迫る牙を凝視した。
重い唸りを伴った鼻息は荒々しく、押し寄せる息は灼熱の如く熱い。
紅く絖る舌は生々しくて、巨(おお)きな牙は雪のように白かった。
〈愚かな奴だ。ふ、ふ……驚いて声も忘れたのか〉
ぐ、ぐ、ぐ、と骨が歪んでゆき、全身が圧搾される音が鼓膜を圧す。
【あぐぅっ! あ゙あ……っ、かはッ】
気道が潰れ、ひゅうひゅうと洩れる可細い喘鳴が、彗の芳しくない様子を繰り返し訴える。
まずい、非常にまずい事態に天音は臍を噛んだ。
このままでは、彼の魂が消滅するのも時間の問題かも知れない。
唐突に、天音は駆けだした。
駆けだしたまま、今にも彗を握り潰さんとする屈強な拳に向かって身体を投げ出す。
再認識するのは、これで一体何度目だろう?
生家を失くし、廃業を願っていようとも、やはりこの身を組成するチカラと戦闘本能からは逃れられないのだ。
この世に、迷える魂がある限り!!
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