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【痛ってぇ~……テメェ、いまグーで殴りやがったな!?】
雨降りの、静かな夜半にいきなり転がり出た会話は、なんとも言い難い刺々しいものだった。
僅かに赤くなった頬を摩りながら憤慨する、青髪の幽霊男・彗。
「だって。電子レンジ開けたら、いきなり顔があるんだもん…ついバシッと」
【ふざけんな……痛ってて、幽霊殴るとかお前、どんだけの馬鹿力だよ】
「嫌なら、大人しくしてればいいじゃない」
ぷい、と彗の鼻先を天音のツインテールの先が掠めて通り過ぎた。
顔合わせを済ませたとはいえ、天音は(何かとフレンドリーな彗は別として)まだ完全に環境に馴染んだという訳ではなかった。
やっと一人暮らしができると思いきや、引越し先はボロ物件で、しかも幽霊付き。
取り敢えず、家賃は安くて助かる。
しかし想像していた生活とのギャップが激し過ぎて、なんとも言えない不快感が鎮座し、未だ天音を意固地にさせていた。
【なんだよ。被害者はこっちだっつーの…】
返ってくるだろう軽口と拳に、彗は戦闘態勢をとって構えるが、いつまで待っても天音からの反撃はなかった。
【天音?】
身を乗り出すようにして天音の肩に触れた瞬間、彗は小さく息を詰めた。
『 サミシイ…サミシイ… 』
彗の中を、声高に鋭く――その、ただ一言が貫通していったのだ。
何故かは解らないけれど、いま彼女から伝わってきたのは、救いを求める酷く頼りない思念だった。
(何でかは知らねぇけど…いま、コイツから伝わってきたのは…?)
背中を向けて、段ボールを漁っている天音の横顔はどこか寂しそうで、今にも泣き出しそうな具合さえ窺えた。
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