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【なぁ…】
「、なに?」
不意に感じた大きな手の感触に、天音は僅かに顔を歪める。
それは――――独りでも大丈夫なのだと、己に言い聞かせるような固く強張った表情だった。
【いや、なんて言うか……なんとなく、かな】
「少しだけど、ちゃんと温かいね…」
すらりとしているけれど、それでもちゃんとした男性の手の感触。
霊なのに、なぜ温もりが感じられるのか不思議だったが、細かい疑問は取り敢えず伏せておくことにした。
霊体ゆえなのかどうかは解らないが、若干低めな温もりが心地いい。
こうして、誰かに頭を撫でられるのは何年振りだろうか…。
くすぐったくて、なぜか懐かしくて、胸が暖かくなる。
きっと、彼は慰めようとしてくれたのだろう。
癖なのか、険しい表情は相変わらずだが、今はどこか優しさが滲み出ている。
バツ悪そうに目を逸らしながらも、頭を撫でてくれる彼の不器用な優しさが嬉しくて…天音は柔らかく笑った。
「ありがと。アンタも、案外いい奴じゃん」
頭を触れていた掌に確りと握り返す感覚を感じた瞬間。
彗は、かあぁっ…と電光石火の勢いで熟れたトマトのように顔を赤くした。
【ばっ! いや、そのっ……別に俺はっ…】
彗は赤面顔のまま合皮ソファの背凭れを蹴り、脱兎の如く壁を擦り抜けて奥の部屋に逃げてしまった。
――――どうやら照れたらしい。
幽霊という存在も、こういう時に限っては有利な面があるものである。
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