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【あの、さ…】
物思っていた天音は、やや遠慮気味な声を聞いて、ぐるりと視界を廻らせる。
と、すぐに彗が壁から首だけを出してこちらを見ているのが見つかった。
その情けない格好に、思わず短い溜息が漏れる。
「なにやってんの。こっちに出てくればいいじゃない」
それでも彼は、なにやら思案顔で動こうとしなかった。
【急に訊くのもちょっとあれかと思ったんだけどよ、訊いてもいいか?】
「なに?」
(うわぁ、生首…)
相変わらず壁から頭だけを生やした生首状態だが、本人が気に入っているようなので無視をすることにする。
こちらとしては微妙なアングルなので、早急に止めて欲しいところだが…言ったところで、彼は聞かないだろう。
【お前、もしかして……誰か、大事な奴を亡くしたのか?】
「ッ!」
動揺を悟られまいと、ごく短かに息を呑んだ天音の些細な仕種を、彗は見逃さなかった。
【そう、なのか?】
彼女から伝わってくるのは、濃厚な困惑と罪の意識、罪悪感。
「な、なによいきなり…不躾ね…」
彼女――――…天音は『なにか』に怯えている。
その『何か』がなんなのかは解らないけれど…。ひどく、負い目を感じているのだろう。
居心地悪そうに居住まいを正した彼女を見て、彗は咄嗟にそう感じた。
今までの経過を見て解ったことだが、別に彼女は幽霊の類いに怯えている訳ではないようだ。
彼女自身も言っていたように、霊能者の娘なので元々そういったモノが見える人間なんだろう。
しかし、気丈な彼女の目の色を変えさせる程のなにか。
何があったのだろう?
過去に、口外を憚るような『出来事』でもあったのだろうか?
【悪ィ、だからそう怒んなって。なんつーのかな、なんでかお前といると…そういうのが流れ込んでくるんだよな】
「で、気になったから訊いてみたって訳ね?」
【仰る通りで】
こっくりと肯いた生首に、天音はやれやれと言いたげに肩を竦めてみせた。
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