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【その…気になったからつい。訊いちゃ…悪かったか?】
「ううん。別にいいわよ。気になったのなら話してあげる」
【いいのか?】
「…まあ、いつどこでも起こり得る…有り触れた話なんだけどね。3年前、母さんが死んだのよ…」
【お前…】
死。
生きていれば、いずれは訪れるもの。
だが、ここで示すのは、生半ばでの別離だ。
これが普通の少女なら、失くした過去を想って泣いているのは間違いないだろう。
けれど、言葉とは裏腹にこちらを見つめ返す天音の瞳は勁かった。
【お前、それじゃあ…頼る身寄りは何処にもないっていうのか?】
「仲間は大勢いる…でも厳密に言えば、近縁はいないわ」
【そっか…】
「あの日のことは、今でも……ううん、きっと一生忘れられないと思う」
微妙な表情で小さく頷く彗の反応を見て、天音は内心で自身を嘲笑う。
彼は多分、それしか反応を返す方法がなかったのだろう。
まあ、気軽に身の上話を訊ねたら、突然に重い話をされたのだから無理もない。
衣類等を総て出し終え、段ボールを畳んでしまうと、天音は荷物の中から写真を拾い上げる。
箱から取り出された写真はたったの一枚だけで、彗の目には他は全て見慣れない道具ばかりが整然と並んでいるように見えた。
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