2話:母からの手紙……そして、

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「さてと。重くて暗い話はお終い」  沈んだ空気を追い払う如く背中を向けた天音に、彗はまだなにか言いたげに言い淀んだ。 【天音…】 「別離は確かに悲しいけど、いつまでも寂しがっていられるほど子供じゃないもの。そうでしょ?」 【お前……なんて健気なんだ、オレ感動し、ゴフぅっ!!】  感情のまま抱き着こうとした彗だが、無念。  ハエ叩き式のビンタを受けて、敢え無く瞬殺されることになった。 「は~い黙る、アンタねぇ…調子に乗るんじゃないの」  にっこり。  それはもう、にっこりと。  摂氏零度の黒笑(ブラックスマイル)を咲かせた天音に、彗は忽ちに背筋を凍らせた。 【……ごべんなはい、済ばねっす。(鬼だ、鬼がいる!)で、なんだ? これ】  これ、と顎で示された先には先頃段ボールから出したばかりの雑多な荷物がある。  乗りよくふっ飛ばされて床とお友達になっている彗だったが、目線だけを向けて興味深々と言った様子で問いかけてきた。 「遺品よ。母さんの仕事道具も荷物も…元々少なかったから、これしか遺ってないんだよね」 【ああ!! この顔、見たことあるぜ! 確か、藤咲…藤咲可耶子っ。死んだなんて聞いてねぇよ!?】 「あれ、知らなかったの? 結構、TVで騒がれたんだけど…」  衝撃を受けたように打ちひしがれる彗の様子に、天音は違和感を覚えて問い返す。  なにか事情があったのだろうか。  母の死を知らないというのならば、彗の身に禍事が降り掛かったのも恐らく同時期なのだろう。 【知らねぇよっ。俺、あの人のファンだったのにぃ! しっかしお前、冷めてんなぁ…】 「だって、願っても戻らないものは、どうしようもないでしょ。残念ながら、あたしには過去に固執する趣味はないの」  強い口調で突っぱねる天音だが、大丈夫なようには到底見えなかった。  むしろ、横顔は先よりも悲壮さを増していて、触れたらそのまま脆く崩れてしまいそうだった。 【ずっと我慢してきてンだろ、そうやって…自分に暗示かけてさ…】 「放っといて。アンタには……関りのない事よ」  ぱたぱたり、と色褪せた写真に二つ、雫が降る。  剥き出しの拒絶だが、彗にはそれが、彼女の喩えようない苦しみの聲に聞こえた。  ふと徐ろに写真に触れた瞬間。彗は、流れ込んでくる感情の荒波の中にいた。
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