2話:母からの手紙……そして、

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 ――――いつも、いつも周りの顔色を窺って…苦しかった。  流れ込んでくる感情は、彗の中でぶつかり合って、光色の火花を散らす。  ――――本当は、今までずっと寂しかった。でも、隙を見せちゃいけないんだ。  ――――あたしは“藤咲可耶子の娘”だから…勁くなければいけない。迷惑、かけないように。本当は寂しいけど、寂しがっちゃいけないんだよね。  ……人並みの苦しみを感じることも許されなかった。  常に、群を統率する覇者の威厳を求められてきた。 (なんだ、これ…)  押し寄せてくるのは、燃えるような悲しみと、寂しさ。  苦しくて、ひもじくて…凡てを掻き毟りたくなる激情に、彗は歯を食いしばる。  けれどそれでいて、身に沁み渡る温かな感情の名を、何と言っただろうか。 (こいつ…まるで、出口のない氷水の中で足掻いてるみたいだ。なのに、そうさせた者を許そうとしている…)  大切な者を亡くしてもなお…気高さを保とうとする彼女を、彗はなぜか無性に抱き締めたくなった。 【お前、ちょっと来いっ】 「ちょっ、なに?! どうしたの、彗?」  不意に訪れた逞しい腕に強く抱き締められるような感覚に、天音は刹那だけ目を瞠った。 「彗?」 【なんも覚えてない俺が、人様のことあんまし偉そうに言えねぇけどよ…】 「…何が言いたいの?」 【だから…あ゛~巧く言えねぇっ、だからな、何もかも全部、天音一人で苦しむことはねぇんじゃねぇのか…?】 「っ!! だから? ……だから、なんだっていうのよ……私は、私の所為で、もう誰も不幸にしたくないの…」  向き合う形で、すっぽり抱きしめられた天音は初めこそ身動いだが、やがて諦めたのか彗を拒むことはなかった。
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