2話:母からの手紙……そして、

9/14
前へ
/23ページ
次へ
「バカ……アンタのせいなんだから。優しぶらないでよ、むやみに優しくしないで。でないと…このままじゃ、あたし……泣いてしまいそうよ」 【泣いたっていい。苦しい時は、思いっきり全部吐き出しちまえばいんだよ…】  恰好つけてそう云ったものの、色々な記憶のパーツが足りない今の彗には、ふいに生じた感情がなんなのか、思い出せなかった。  戸惑いが胸の底をひどく焦がして、痺れるような痛みばかりを与えてくる。  解るのは、この状況を特に意識してやった訳ではないということだけ。  ただ、彼女には泣いて欲しくないと思った瞬間、気付けば身体が勝手に動いていたのだ。  突然湧いた得体の知れない感情に、彗は内心で僅かに震えた。 【この先まだ長いんだからサ、少しずつでいい、互いに教え合っていこう、な?】 「記憶喪失な人が、なに生意気いってンのよ」  天音は掠れ声で云いながら、短く鼻水を啜る。  涙声で明瞭に聞き取れなかったが、彼女が笑ったことだけは理解できた。 【だよな……言ってて、自分でもそう思うよ…】  俯いて、涙でくしゃくしゃになった顔を隠していた天音には、彗の表情が分からなかった。  だが、声の調子(トーン)で彼が落ち込んだであろうことが伝わってきて、良心が痛んだ。 「でも、ありがと」 【えっ!?】 「彗のお蔭で、元気出たみたいだから……だから、ありがと」 【天音!?】  果たして、自分の声は彼女に届いただろうか?  唐突に音声が遮断され、視界もが一切無くなって白に満たされた。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加