放課後、映画、恋の始まり

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あの日もこんな寒い日だった。 吹きつけてくる風が強くて冷たい。彼と出会ったのは、そんな、寒い冬のとある一日であった。 寺田美佳の二つ年上の友人の彼氏が彼であった。二人は遠距離恋愛をしているが、たまたま美佳と彼、吉田真人の住んでいるところが近く仲良くなっただけのこと。美佳は友人のことが好きであったし、真人も彼女のことが好きであった。だから、間違いなんて起こるはずがないと、そのときはそう思っていた。 「お待たせしました」 「大丈夫だよー」 何度も連絡を取り合った真人から見たい映画があると誘われたのが今日であった。間延びした声でへらりと笑った真人は、じゃあ行こうかと美佳の手を掴む。自然と絡まる指に、あ、と思ったが手を繋ぐくらいならまあいいかなとなにも言わずにいた。背は美佳より20cmほど高いのにさほどサイズの変わらない彼の手は、冬なのに温かい。 「真人さん、手ぇあったかいですね」 「さっきまで中にいたからね。それにしても美佳ちゃん手ぇ冷たいね、冷え性?」 「ですね、今日は特に寒いので」 そう言って繋がっている方の手をぎゅっぎゅと何度か動かすと、彼の手は美佳の手を包むように動いた。ああ、温いなと思う。あったかいですと言うと、彼はそれはよかったと笑った。それを見てしまった美佳の心臓はどくりと脈打ったが、冷たい空気を肺に吸い込んでなんとか冷静さを取り戻す。なんだか、その笑顔を見てはいけないような気がした。その笑顔は、あえて表現するならば彼女に、大切な人に向けるものであった。 「混んでるかもしれませんね、日曜日だし」 「じゃあ、混んでたらカラオケでも行く?時間潰しに」 「いいですね」
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