2.フリーライター矢部

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 「濃純」の麺は食べ終わった。汁まできれいに飲み干すと、矢部は再びソファーにひっくり返った。満腹感に浸っていると、今度はテーブル上の携帯電話が、鈍い音を立てて動いた。井出だろう。 「よーっ、矢部か?」  矢部が何か言う前に、井出は友人特有の慣れ慣れしさで切り込んできた。 「はい、そうでございます」  矢部もわざと慇懃な口調で応える。 「おいおい、おふざけはよせ。それより紗江子さんから聞いたか?」 「あの事件、だろ。詳しくは、お前から聞けってさ」 「そうか。じゃ、どういう事件かを説明しに、これからそっち行くからサ」 「あ、すまんがタバコ買って来てくれ」 「わかった」  井出はそう言うと、すぐに電話を切った。  井出は事務所のドアを勝手に開けて入ってきた。と、すぐにポケットに手を突っ込み、タバコ6箱を手裏剣のように飛ばしてきた。矢部は素早い身のこなしで、タバコ6箱を見事にキャッチした。 「タバコ代にも困ってるのかよ、貧乏人は嫌だね~」  そう言うと、井出は我が家のようにくつろぎ、コーヒーを勝手に入れて飲んだ。 「オー!タバーコ!サンキュー!ところで、事件の説明だったな」  矢部は早速、新しい箱を開け、タバコを吸い出した。  井出はテーブルの向かい側に座った。神妙な顔になっている。 「矢部も知ってるだろ、貴田優子」 「ああ。で?」 「死んだよ。映画撮影中にな」 「いつ?」 「昨日だ」 「お気の毒だな」  矢部は大して興味なさそうに言った。 「それだけか。死んだんだぞ、あの優子が」  井出の顔付きが感情を抑えたそれに変わった。それほどまでに貴田優子のファンだったとは。 「それがお前の言いたい、あの事件なのか?」 「ああ、いや、そうじゃない」  井出は今度はクールな顔になった。ころころ表情が変わる。 「事故死なんだが・…何か腑に落ちないんだ」 「事故だったら仕方あるまい。お前が納得しようが、しまいが」 「だから相談に来たんだろうが。タバコ6個を手土産にな」 「で、何がそんなに腑に落ちないんだ?」 「実は、優子、いや被害者周辺の関係者を調べたんだが、あの被害者、何と驚くなかれ、すごい悪評判なんだ、びっくりした」 「中には、そんな人もいるかもな、生存競争が厳しい世界だからな。表の顔は可愛いいが、裏の顔は怖いとか、な」 「正直、幻滅したぜ、優子」  井出は悔しそうに窓を見やった。
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