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いい歳した刑事だってのに、何を寝ぼけたこと言ってるんだか。
「ところで、悪評判だから何なんだ」
「つまり被害者は、周囲の人間から憎まれたり、恨まれていたんだ。関係者の中には、ここだけの話ってことで、死んでくれてよかった、とまで言った奴もいたぞ」
「中途半端な性格よりはマシかもな。徹底してるとも言える。ところで、本当にそれが、それほどの事件、いや事故なのか?」
「矢部、このオレが腑に落ちないって言ってるんだぜ」
「いつものことだろ」
「いいか、被害者に対して関係者の多くが悪口を言ってる。それだけじゃない。三角関係は言うに及ばず、大物プロデューサーまで手玉に取るわ、女王様気取りでマネージャーなんて、もう奴隷だ。他にも、ひどい目に遭わされた関係者が何人もいる。殺意だって、あっても不思議じゃない、そう思わんか」
「だとしても、事故なんだろ?」
「そこなんだ。事故は事故のようなんだが・…」
井出は、貴田優子の事故死までの状況を熱く語りはじめた。
「というのが、貴田優子の事故死までのいきさつなんだ。貴田優子が躓いたのは、セット床の小さな窪みだ。うわべからじゃ全然わからないがな。事故とは言ってるが、何か感じないか、怪しい気配を」
矢部も井出の話を聞いて、事故にしては、どこかおかしい気がしていた。だが、まだ何がおかしいのか矢部自身もすぐにわからない。
「そう言われれば、そうだな。単なる事故にしては、な」
「そうなんだ、そこだよ。本庁では、もう少し関係者に事情を聞くように言ってるが、最終的には事故として処理するだろうな」
井出が溜息まじりに言った。
「お前が腑に落ちないって言った理由が、やっとわかったよ。整理すると、こういうことだろう。貴田優子は周囲の人間から憎まれ、恨まれていた。中には殺しても飽き足りないって奴もいただろう。つまり殺意だけなら関係者の多くが十分過ぎるほど持ってる。貴田優子の事故死に関係するのは、本物の日本刀そして床の窪みだ。これらだけを考えれば、何者かが意図的に被害者を殺そうとしていたようにも見える。だが・…」
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