2.フリーライター矢部

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「そのとおり。誰も優子を殺してなんかいない。優子、いや被害者とは何の関係もないスタッフも含めて、事故現場には多くの人間がいた。そして皆が被害者の事故を目撃している。誰一人として、被害者に指も触れていない。状況から考えると、優子が勝手に床の窪みに足先を取られ、よろけてテーブルの日本刀に当たって死んだ、ということになる。だからこそ事故なんだが・…」 「しかし、だ。日本刀が本物でなければ、被害者は死なずに済んだ、これは確かだ。だが本物であっても、被害者が躓かなければ、よろけなければ、やっぱり死ななかったはずだ。そもそも、本物の日本刀が置かれてる傍で練習したってのが、どうも気になるな。誰も危険だとは思わなかったのかな」 「この事故には、明確な殺意が潜んでるとオレの直感が訴えてるんだが、あまりに偶然的な条件が重なり過ぎて殺人とも考えられない」 「そういうことになるな。井出、お前の言うように、事故として処理する警察の見解は、正しいよ」  井出は黙ってうなずいた。それが本心では同意していないことが矢部にはわかる。 「ところで、おれは未だ現場を一度も見ていない。見せてもらえないか」
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