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「やめんか」
「えー、いいじゃん。 これこころ」
「え?」
トントン、と教科書を叩いた。
わ‥‥指、長いなぁ。
手とか大きいし。やっぱり男女で差が出ちゃうんだ。
そう思いながら自分の手に、目線を落とした。
「こころ? 見てる?」
「へっ、‥‥あぁ、見てる見て‥‥る‥‥‥‥」
そこに描かれていたのは、‥‥何これ?
辛うじて女の子とわかるレベルの、お世辞じゃなくても上手いとは言えない絵。
つまり下手で。
「可愛くね?」
「バカにしてる?」
「なんで?」
「これ何?」
「こころって言ったじゃん」
「え、ブサイク」
「ヒド! こころにぴったりじゃん」
「うるさい。どーせあたしはブサイクですぅー」
あっかんべをして前を向いた。
前では黒板に向かって先生が一生懸命、公式の解説をしてる。
でも誰も真面目に聞いてない。
だって数学だし。翔輝みたいに、寝てるやつがどこかにいるかもしれない。
頬杖をついて、ぼーっと窓の外を眺めていたら。
くんっ、と髪の毛を引っ張られたような感覚。
「‥‥‥‥‥‥」
振り向いてみると、‥‥翔輝があたしを見つめていた。
「な、何」
ちょっとドキッとしながら聞いてみる。
「こころ‥‥‥‥」
「何?」
「‥‥んー‥‥‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥?」
あたしの髪の毛をきゅっと掴んだまま、目を閉じた。
え‥‥これ、寝た?
「しょ、翔輝」
「‥‥‥‥‥‥ん」
「‥‥完全に寝た」
えぇぇぇえ。
髪の毛から手を離してくださいー。
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