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こんなの見たくない。
早く、早く……、ここから立ち去らなきゃ。
動揺して、足がもつれて、転んでしまう。
その拍子に扉にぶつかってしまい、ガタンッと大きな音を立ててしまった。
――やばい!
「え……?なに?今……」
水谷先生の、不安がる声が聞こえて、ますます焦る。
あたしは急いで立ち上がり、また転びそうになりながら、廊下を走った。
もう、足音を響かせることなんて気にしていられない。
階段も走って上がり、生物室に入る頃には、息切れで喋ることもままならなくなっていた。
「お……、なんだ、若森、どうした?」
「は、……はぁっ、はぁ……、ごめんなさ……、遅刻……」
遅刻したら普段は怒るはずの男の先生も、この時ばかりはあたしの様子を見て心配している。
「あの……、遅刻届け……」
教室で書いた遅刻届けを出そうと、ポケットに手を入れようとしたら、
「……あ、はんこもらってなかった」
職員室で、担任の先生のはんこをもらい忘れてたんだった。
「もういいから。担任の先生のところには、後で行きなさい」
「はい……」
返事をして、席につく。
生物の授業は、何も頭に入らなかった。
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