「脅してみる?」

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「あたし、職員室に寄ってから行くね。えりちゃん、先に教室行ってて」 「りょー!」 “了解”を略して言うえりちゃんに、ふっと吹き出し、あたしだけ職員室へ。 貰い忘れた遅刻届けへのはんこを、担任の先生にお願いしに行かなきゃいけない。 担任の先生は、去年結婚したばかりの31歳。小柄で、雰囲気も柔らかい。 何よりも、女性だから話しやすくて嬉しい。 去年の担任とは違うから、予想通り、初めての出欠確認で“一葉”を“かずは”と呼び間違えられたけれど。 小学生の頃からのお馴染みのことだから、「あたしは“ひとは”です」って訂正するのにも慣れている。 職員室に行き、先生の前で遅刻届けを出そうと、ポケットに手を入れると、 「あれ!?」 「どうしたの?若森さん」 先生が首をかしげる。 「あれ?遅刻届けがない……」 「書いたのよね?」 「かっ、書きました!」 確かに、ポケットに入れたはずなのに。 身の回りをパタパタ叩く。 生物の教科書の間にも、ノートの間にも挟まっていないし……。 また書き直し?なんて思っていると、 「これ、探してる?」 背中から呼び掛けられる声に、緊張して身を固める。 男子の声。
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