「好きだった」

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この人……、確か、久我(くが)くん。 親切心で立たせてくれようとしているのに、あたしはその手が取れない。 「だ、大丈夫だよ……」 そう言ってごまかそうとしたのに、久我くんは手を引こうとしない。 優しい人。 だけど、困る。 いつまでもこのままだと、変に思われる。 それに、失礼。 分かっているのに……。 自分から、触れない。 困って、目を泳がせると、 「あ」 と、久我くんは、差し出していた手を急に引っ込めた。 助かった……けど、あたしが手を取らなかったから、怒ってしまったのだろうか。 「こら、久我、お前何やってんだ。転ばせたくせに」 あたしたちの様子に気付いたのは、椎久くん。 あきれ顔で、久我くんの隣に並ぶ。 しりもちをついている間に、男子が2倍に……。 「いや、俺、女子さわれないから」 久我くんが、まるであたしみたいなことを言う。 もしかして、久我くんも女子が苦手……? 普通に話しかけられて、手の差し出し方もスマートだったから、全くそんな感じに見えないけど……。
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