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夜の帳が降りる頃。
わたくしの姫君は寝所で、きまっていつも、同じことをわたくしに可愛らしくお願いするのです。
「ねぇねぇ式部(しきぶ)。
次のお話を聞かせて」
可愛らしいそのお願いを、はねのけることなど、いったい誰ができましょう。
わたくしはそうして今日も、同じ物語をお話しするのです。
わたくしがその本を手に取ると、姫君はうれしそうな顔をして聞き入ってくださいます。
その咲き初めの花のような笑顔をほほえましく思いながら、わたくしはそっと口を開きます。
これからお話しするのは、華やかで美しく、そして…――
可哀想な、ひとりの男の人生の物語。
「あれは、いづれの天皇の御代のことだったのでしょう――」
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