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「ただいま」
いつものように言った、僕の言葉に対するきみの応えはなかった。
それどころか、僕がきみに何を話しかけても、きみは固まった笑顔のまま僕を見つめるだけだった。
やはり、朝感じた僕の違和感は本物だったのだ。
僕は急に寂しくなってしまった。いつも近くに感じていたきみのにおいが遠くにいってしまったような気がしたから。
「明日から休みか…」
僕は独りごとを言った。
そして、それをどのように使うのか決心した。
きみの真意を探りたい。
それが僕の答えだ。
僕は入社後初めてもらった連休を利用して新潟に帰ることにした。
東京から新幹線で約二時間の旅。
その新幹線を待つ僕の姿は、とてもきみに見せられるようなものではなかった。きみから離れようとして上京してきたのに、一週間と少しでその決意が揺らいでしまったのだから。
僕は何て愚かな男なのだろうか。
ホームには春の穏やかな風が吹きやまず、その風に乗って、どこからともなく桜の花びらがひとつ、またひとつと舞っていた。
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