1章 私たちのおんぼろ自転車

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いいんだよ、別に。休日に故郷へ帰省して畑仕事なんて、私には向いていないのだ。 だから気にすることはない、と自らに言い聞かせ、気を紛らすように壁に掛かっている古時計に目をやった。 空との待ち合わせの時間は、午前10時、あと15分だ。 スッと立ち上がり、そのまま縁側から外へと出てサンダルに足を突っ込んだ。 「お、動いた」 太陽の嫌味が後ろから聞こえたが、相手にしたら敗けだと思い、振り返らずに玄関まで小走りで向かった。 玄関では、祖父母が畑に行く準備をしていた。 真夏なのに露出度の低い農作業服を着込んで、傍らには、大きなかごも置かれている。 「おや陽向、お出掛けかい?」 バタバタと走ってきた私を見るなり、おじいちゃんがいつもの笑顔で問う。 「うん、空に会って来る」 そう答えると、おばあちゃんも歯を見せて笑い、私を見た。 「陽向は本当に、空子ちゃんが好きなんだね。若いってのは羨ましいねぇ」 そういうおばあちゃんは矍鑠としていて、まるで不死身のよう、なんて言ったらしばかれそうな程、相変わらずの元気さだ。 お父さんもそうだけど、男性陣はゆったりとした島民ならではの空気が漂ってる。 その代わり女性陣は、底なしの活力を携えているのだ。
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