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何と面白きことか、小見川家の血筋。
「そうだ、自転車借りてくよ」
玄関先にある、古ぼけた自転車を出しながら言う。
少し動かしただけでミシミシと音を立てるおんぼろ自転車だが、昔はこれを借りて乗っていたので、全身に馴染んでいるのだ。
最も、本土で乗ってた自転車よりはるかに汚いが。
私がサドルに跨がり足で地面を蹴るのと同時に、おばあちゃんの威勢の良い声が背中にぶつかる。
「いってらっしゃい、気を付けるんだよ!」
「わかってるよ!」
ペダルを漕ぎながら、大声で返した。
ばあさまは声がデカイ、でも、そこがまた好き。
自転車を漕ぎ始めてから約5分、約束の場所である港に着いた。
空と遊ぶ時落ち合う場所は、今も昔も変わらずにいつも決まってこの港らへん。
しかも港ではなく、港らへんなのだ。
それでも約束通り落ち合えるのは、なかなか素晴らしいことではないか。
自転車を止めて降り、目の前に広がる海を見据えた。
本土から見る海とここから見る海は、同じ海でも全く別物に感じる。
空気が澄んでいるせいか、見慣れている風景のせいか、あるいは私の気分が昂っているせいか。
全て当てはまるんだな、とひとりで笑っていると、背後から、自転車のブレーキ音が聞こえた。
「陽向!」
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