1章 私たちのおんぼろ自転車

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懐かしい土地に久しぶりの親友、当時と同じ自転車。なんだか、昔に戻った気分だ。 「陽向、どこか行きたい所ある?」 空の質問に、私は首を傾げる。 「行きたい所、っていうか、島を回りたいな。ぐるっと一周」 「それ、いいね」 そんな突飛な回答に、空は賛成してくれたのだった。 そうと決まれば吉日、自転車に跨がると、ふたり一緒に並んでペダルを漕いだ。 無機質な音を立てて軋む私たちのおんぼろ自転車は、まるで、時を遡って行くようだった。 まず最初の思い出ポイントは、ここ、船着き場。 昨日船から降りた時に眺め回したので今日はスルーだが、ここは数ある思い出ポイントの中でも特に印象深い。 理由というのも、先程のように空との待ち合わせに必ずここを選んでいたからだ。 待ち合わせだけではなくて、もちろん帰り際もここで別れた。 ここを選んだ理由こそ無いけど、暗黙知みたいなもので、心理的行動、つまり、そういう風に出来ているのだ。 ペダルを漕ぎながら船着き場を目で追い、次なる思い出ポイントを目指した。
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