序章 グラッとする

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グラッとする。 まさにスカイブルーの名に相応しい晴天を仰ぎ、雲ひとつさえ携えないその炎天下を私は恨んだ。 水平線の先でスカイブルーと繋がったマリンブルーは穏やかで、船に合わせて白波を立てる。 生暖かい風を全身で受けながら、その白波さえも睨み付け、かつて氷が入っていた筈の生暖かい麦茶を一息に飲み干した。 何だってこう、具合が悪くなる要素が勢揃いしているのだろう。 せめて空に雲があったり風が涼しかったり、少しでも涼しげな夏を演出してくれても良いだろうに。 グラッとする。 「もうすぐ着くから頑張れ、陽向」 心配する素振りが毛ほどもないその声に腹が立ち、振り向き様に、カラとなった水筒を投げつけた。 「うるさいな、着いたって暑いものは暑い」 そう叫ぶと、ギリギリキャッチした水筒を突き出して、叫び返してきた。 「水筒投げんなよ」 「カラだもん」 「カラでもだ」 「やめなさい、ふたりとも」 こんな猛暑日の中口喧嘩を始める私たちを見かね、母がぼそりと言葉を放つ。 そして続けざまに、父のやんわりとした声が聞こえた。 「陽向、太陽、ほら見てみぃ。島が見えてきたよ」 私は水筒を持つ太陽をキッと睨みつけ、父が見る先に目を移した。 「わぁ!」 「わぉ!」 太陽と歓声が被ったが、今はどうでもいい。 まだ少し距離があったが、あれは紛れもない生まれ故郷”照波島(てるなみじま)”だ。 何年ぶりになるのだろう。 高校へ進学する時に島を出たから、もう5年は経つだろうか。 相変わらず小ぢんまりとしたシルエットだが、しかし広漠たる海にポツリと置かれたそれは良い意味で目立っていた。
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