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私は船から身をのりだし、目を輝かせて前方に構える照波島を見つめた。
まだ距離はあるけど、本当にもう少しで故郷へと降り立てる。
これから1ヶ月間、短大の夏休みが終わるまでこの生まれ故郷で過ごすという計画は、随分前から予定していたものだった。
5年といえば短いかもしれないが、島暮らしに慣れていた私にとって本土での生活は、ただひたすらに息苦しかった。
背の高い建物や走る車の数、どこへ行っても混み合う人の多さ。
そういった環境に世慣れない私は、あののびのびとした島の生活にいち早く戻りたいと切に願っていたのだ。
しかし戻れる筈もなく、逆にこれからの人生を本土に費やしていかなければいけない。
そんな人生は真っ平ごめんなので、少しでも予定の入ってない日があれば照波島へ帰ってきてしまおう、という計画を企てた。
そしてその予定の入ってない日は、無論夏休みも該当するわけだ。
今日は家族全員揃って照波島へ帰るが、両親は仕事の都合上本土に帰ってしまうらしい。
ということは、寝泊まりさせてもらう家に住む父方の祖父母と、双子の兄である太陽の4人で暮らすことになる。
こんな言い方は失礼だが、正直気が楽で仕方ない。
何と言っても、両親がいないのだ。
勉強しろとか就職のこととか、うるさく言われずに1ヶ月過ごせる。
しかも優しい祖父母と大好きな島、そして唯一無二の親友、空もいるのだ。
こんな幸せなこと、そうは訪れない。
ギラギラと照りつける太陽を忘れ、私はひたすらに遠くの島を見つめた。
たった1ヶ月、されど1ヶ月。
私はこの貴重な1ヶ月を、大いに楽しんでやろうと心に決めた。
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