1章 私たちのおんぼろ自転車

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深見空子。 私が空と呼んでいる美少女は、深見空子という。 何度聞いても素敵な名前だ。 空を深く見る子、なんて勝手に解読してしまう私の名前は、予定では陽向じゃなく、夏子になる筈だったらしい。 夏に生まれたから夏子。小見川夏子。 これには母が猛反発して、ダサいだの古いだのボロクソ言った結果、夏らしく陽向になったらしい。 こんな時ばかりに思ってしまうのも癪だが、母が都会生まれでよかった。 双子の兄である太陽も、母のおかげで夏男にならず感謝しているようだ。 そんなネーミングセンス皆無な父と救世主母は本日、仕事の都合上本土へ帰って行った。 島に着いてたったの一泊でもう戻るなんて、何だかもったいない。 寛げる私とは対照的な両親を哀れんでいると、太陽が、せこせこと農作業服に着替えて出しているのを見掛けた。 「太陽、畑仕事出来るの?」 私の訝しむ顔を一瞥して、太陽は鼻で笑う。 「何もしようとしないお前よりはな」 その言葉とどや顔に少々腹が立ったが、縁側でボーッとしているこの状況下では、何も言い返せない。 「私は、今日空と遊ぶんだからいいんです」 開き直って言ったはいいものの、太陽からはどや顔を向けられ続ける一方だった。
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