敗者 ~プロローグ~

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マウンド上には背番号11番、桐生雄貴(きりゅうゆうき)が立っていた。 陽炎が立つほどの過酷な条件下のマウンドで、しかし桐生は笑顔であった。 この夏、初めて付けた背番号、初めて味わうスタンドからの大歓声、そして初めて経験する、負けたら終わりの背水のマウンド。 それら全てが桐生にとっては心地よかった。 桐生はマウンド上から相手打者を文字通り見下ろした。 188センチと長身の桐生がマウンドに登ると、マウンドの高さと相まって、相手打者は巨人が上から投げ下ろしてくるかのような錯覚に陥る。 桐生はプレートを外して一度伸びをし、帽子を脱ぐと、ツバに書かれた〝乾坤一擲〟の文字を見つめた。 帽子の影から現れた素顔は、おおよそ150キロ近い速球を投げ込んでくる投手とは思えない、まだあどけなさの残る16歳の青年であった。 帽子を再び被り直すと、顔に滴る汗を拭い、ロージンバックを掴み二度三度、ポーンと真上に投げた。一連のルーティーンを終えると、桐生はセットの体勢に入った。
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