敗者 ~プロローグ~

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「スチール!?」 博打だ。球場にいた誰もがそう思った。 あと1アウトで敗退が決定する場面、ましてや4番打者が打席に立っている状況での単独での三盗。 自殺行為と揶揄されても何の不思議もない奇襲であった。 果たして、桐生の投じたボールは狙ったコースを大きく外れ、ホームベースの手前でワンバウンドした。 五十嵐が巨体を活かして何とかボールを手前に落としたものの、ランナーは悠々と3塁ベースへとスライディングを決め、砂ぼこりが舞い上がっていた。 全く予想していなかった三盗、初めて経験する公式戦の緊張感の中でのマウンド、あらゆる事象が影響して、桐生の手元が僅かに狂った結果が招いた暴投であった。 観客のボルテージは最高潮に達していた。 五十嵐がタイムを取り、巨体を揺らして桐生の元へと向かってきた。
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