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「あっちゃー。配球読まれてたかなあ。桐生、すまん。無警戒だった。許してちょんまげ」
出来るだけ桐生を緊張させまいと、おどけた様子で五十嵐が謝った。
「三盗かあ。奴さんも死にもの狂いだねえ」
桐生も笑顔で応じたが、表情が強張っているのを五十嵐は見逃さなかった。
この辺りの洞察力の鋭さが、五十嵐が2年生にして黒泉のレギュラー捕手になり得た理由の一つであった。
「おい、桐生。分かっているとは思うが、ここで勝負だぞ。この状況だ。少しでも逃げに入ったら流れがあっちに行ってしまう。お前の真っ直ぐには中牟田も力負けしてる。真っ直ぐで押して、追い込んだらもう一度、カーブで仕留めるぞ。大丈夫だ。ワンバンなら絶対に後ろには逸らさねえ」
ミットで口元を隠しながら、五十嵐は口早に話した。
「ちょっと待った」
マウンドから去ろうとする五十嵐を、桐生が手で制して止めた。
「全球、真っ直ぐだ」
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