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「ふん。雑魚ばっか」
呆れ顔でレイナ=アルカディアは吐き捨てた。
彼女は新参の騎士を眺め、嘆息する。
(しょーもない連中ね)
豪勢な装飾で飾られた大広間で第三皇女スリナ=アルカディアが五八人の騎士候補全員へ騎士授与式の堅っ苦しい儀礼とやらを施している。
それを裏口の扉を開け、レイナは見据えていた。
(問題児も楽なものね。わざわざクソメンドーなもんをやらずに済むし)
飾り気のない漆黒のドレス、腰には漆黒の刀。皇族としての最低限の『外見』を維持するため、手入れされた肌に漆黒の長髪。
彼女は後ろで一纏めにした黒髪を揺らしながら、その場を立ち去ろうとする。
(今年も個性のない雑魚の乱獲で終わり、か)
数百年前の覇権戦争以後、『戦争』はおろか、反乱やクーデターといった争乱は発生したこともないのだ。
いちいち武力を蓄える必要性を首脳陣は考えてもいないのだろう。
(どいつもこいつも油断し過ぎよ。災厄ってものは油断した時にこそやってくるっていうのに)
扉に背を向け、歩き出した時だった。
彼女の横から、気怠そうな声が聞こえてきた。
「あ、そこの嬢ちゃん。騎士授与式ってどこでやってるか知ってるか?」
「っ」
声のした方を振り向くと、そこには一人の男がいた。
寝癖なのか所々はねた黒髪、薄紅の瞳。
全体的に怠そうな雰囲気を纏う男だった。腰には三〇センチほどのナイフが差してあった。
そんな男が━━━
(吾に気づかれずにここまで接近した?)
そんな芸当ができるのは城内でもメイド長かお父様くらいだというのに……。
「ふ、ふふ」
『最強』の皇女であるレイナ=アルカディアの興味を引くには十分だった。
久しぶりに骨のありそうなおもちゃを見つけちゃった。
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