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「おーい。聞いてんのかー?」
怠そうに男が言う。
普段のレイナなら、軽く半殺しにでもしそうだが、『遊ぶ』ためにも我慢する。
それに、独特の雰囲気のせいか、そこまで怒りが湧いてこない。
「騎士授与式ってことは騎士候補の一人なのね」
「まぁなー。あれか、遅刻したら怒られるかね?」
多分、騎士の資格を剥奪されているだろうが、そのことを教えてやる義理もない。
どうせ騎士授与式が始まった時点で剥奪済みなのだ。今さらというものだ。
「ふふ」
レイナはしなやかな右手を漆黒の刀へ添える。
舌舐めずりしながら、熱い吐息をはく。
好戦的で妖艶な笑みが広がっていく。
「簡単には壊れないでね?」
宣戦布告などしなかった。
さっきの台詞でも大サービスなのだから。
常人なら認識できないほどの速度で抜刀。
漆黒の軌跡が男の首筋を狙う。
最後まで動けなかったようだ。
回避も迎撃も行われなかった。
腰のナイフを抜く間もなく、斬撃が直撃した。
ゴッッギィィィン!!! と。
甲高い激突音が炸裂した。
「…………は?」
笑みが硬直する。
手首に鋭い衝撃が走る。
(受け、止めた…………?)
金の燐粉に似た粒子が男の首筋を覆っていた。
浮遊する粒子に拒まれ、刀身はそれ以上斬り進むことができなかった。
物理現象では起こり得ない結果。
異常の顕現。
つまり魔法であるのだろうが━━━それでも不可解な現象だった。
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