第一章

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文久三年 江戸、山口家 「ただいま帰りました。」 一人の青年が家の戸を開け、玄関に足を踏み入れた。 髪は短く、瞳はやや茶色かかった黒 顔は少々女顔 まぁ、女達が10人すれ違えば 7人が振り向くくらいの美形だ。 「廣明?廣明なの?」 奥から女の人の声がした。 こちらもまた、美形だ。 「はい、ご無沙汰しておりました。勝(ひさ)姉さん。」 「廣明!!」 勝(ひさ)と呼ばれた女の人は 廣明に抱きつく。 名前に似合わず小柄な体格で 廣明が抱き返そうとするとスッポリ収まってしまう。 「ただいま…姉さん。心配かけてごめんなさい。」 「廣明は悪くないわ!はじめも!二人共悪くない!」 廣明が眉を下げながら、申し訳なさそうに言うと勝は泣きそうになりながら悪くないと何度も何度も言う。 背中を叩いてやると、とうとう泣いてしまう。 「…姉さん。ただいま…」 「グスッ…おかえり」 もう一度言うと勝は泣き顔をへにゃりと歪めながら笑う。 廣明は、昔から勝のこの笑顔が大好きだ。 廣明も微笑み返す。 「はじめは?」 勝、廣明、一 は山口家の子供で 一は末っ子、廣明の5つ下の弟だ。 「…それが…」 勝は、少し悲しそうな顔で はじめについて、話はじめた。 旗本から身を隠す為、京の聖徳太子流剣術道場主・吉田某の下へ行ったこと。 文で壬生浪士組へ入隊したと連絡があったこと。 「…そっか。」 「あの子、寡黙だから心配なのよね…母様も父様も心配してる。」 勝が俯き、着物の裾を強く握る。 廣明は、目を閉じ少し考え 目を開ける。 その目には覚悟を決めたような 光が満ちていた。 「姉さん、紙と筆を貸してくれるかな?」 「?…いいけど、どうしたの?」 勝は不思議そうにしながらも 紙と筆を持ってきた。 「尾形さんに文を書くんだ。養子縁組を待ってもらうことと、姓名を貸していただくことを書くんだ。」 「…?」 勝は頭にハテナを浮かべる。 廣明は、苦笑いをして 勝を見る。
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