プロローグ

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「ねぇ、コウヘイ君や。君は犬に睨まれたことがあるかい?」  そんな突拍子もない「ねぇ」がまた始まった。 「そうだな…ん。可愛いねって近づいたら逃げられたことならあるけど…?」  隣から聞こえてきたコウヘイと言う呼び名に少し呆れながら俺はつい最近の出来事を返す。 「ほうほう、それは犬も可哀想な目にあったんだね」 「ん。あれ、変な喋り方もう止めたの?」 「え?記憶障害でも起きたの?大丈夫…じゃないよねぇ」  隣で俺に憐みの視線を送る男に俺はため息で返事をした。 「んーあははは…ごめんってコウヘイ」 「いいよ、いつものことだろ。なぁ、ユキ」  俺が横を向いて諦めたように笑うとユキは、にぃっと笑った。 「はいはい、可愛い可愛い。だから笑って誤魔化すの止めましょうねー」  俺はユキの頭を撫でながら軽くため息をついた。  「撫でる」とは言っても、人によっては「頭をぐしゃぐしゃにかき混ぜる」という認識を持つかもしれないなぁなんて一人注釈を加えてみる。軽い現実逃避だ。 「うん、そうだね。でもコウヘイも一応は高校生なんだから笑って誤魔化すくらいの愛嬌あってもいいんじゃない?」  果てしなく似合わないと思うけど、なんて笑顔で付け加えるユキ。  そんなこと言われなくたって分かっている。    声変わりしてもなお男にしては高めの声。  男子高校生という言葉には似つかわしくない自称150cmの痩せ細った体格。  その天使のような笑顔には老若男女問わず愛でられる存在であることを示している。  そんなユキこと、高原 将行(タカハラ マサユキ)。  そして、その隣で人生の苦汁を味わい切ったような姿で椅子に座りこんでいる俺。  一介の男子高校生として逸脱してしまった自称190cmのがっしりとした身体。  表情筋が仕事を放りだして久しく、最小限にしか動くことのない笑顔はユキにカエルそっくりと揶揄された。  そんな俺の名前は森山 幸平(モリヤマ ユキヒラ)という。  ユキ繋がりだねって最初こそは喜んでいたユキだけど、俺のことを「モリ君」とか「ヒラ君」と呼んでたことから察するに「ユキ」って呼称は譲る気ゼロだったに違いない。 「ねぇ、コウヘイ?僕の話聞いてる??」  ユキに呼ばれてハッとユキと視線を合わせる。 「んー。ユキに催眠術かけられてたみたい」
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