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「記憶喪失とは――災難でしたね。俺はクロード・インフェルノ。C.D.本部の医療班班長をしています。とりあえず……ないとは思いますが、外傷がないかを調べますので医務室へ。櫻庭の旦那、後は任せてください」
クロードと名乗った男はそう言って歩き始める。着いていかないといけないようだが少しだけ疑念が生まれる。コイツが俺を知っていた理由だ。まあ、単なる人違いかもしれないが用心するにこしたことはない。
「そんなに警戒しなくても変なことはしませんよ」
此方を見ずに、俺の考えを見透かしたように言葉を発する。
「まあ、警戒するだけさせてよ。こっちは本当に何も覚えていないんだ」
医務室と書かれた札がかけられた扉を開け、彼はその中へと入っていく。記憶は失っても文字や言語は覚えている、というのは自分でも不思議なものだ。
「どうぞ、座ってください」
椅子に座るように促され、ゆっくりと腰掛ける。彼と向き合う形になり――嫌でも半裸が目に入る。
「あの、なんで半裸なんですか? クロードさ」
俺の言葉を遮り、目の前の彼は「クロードで結構です。なんならお前とか君でも構いません」と言った。さすがに【お前】はこっちが嫌かな、初対面なんだし。あと問いかけに答えてもらってないんだけど。
「クロードはなんで半裸なの?」
「そこに関してはアイデンティティというか癖というか。とにかく慣れてください」
「いや慣れないよ」
何を言ってるんだこの男は。自分がこの男の知り合いなんて信じたくなくなってきた。
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