3人が本棚に入れています
本棚に追加
そういえば、シンフェルシアってなんだろう。誰かの名前? それとも土地の名前?
「あの、シンフェルシアって――」
「これは参った、本当に記憶喪失なんですね。……単に俺をからかっているだけかと思ったら」
そう言葉を遮られる。俺はどれだけ信用がないのだろうか。ちょっとだけ記憶を失う前の自分を恨んでみる。
「だから言ってるじゃない、本当に何も――」
「小雪嬢のことも?」
こゆき。聞いたことあるようなないような人の名前。きっと大切な、自分の名前と同じくらい――あるいはそれより大切な名前だった気がする。気がするだけだった。それがどんな人物かまではわからない。
「そうですか」
俺がその名前の人物を忘れていることを察したのか、目の前の彼はそう言うと黙ったまま俺を見据える。
「では、しばらくここで過ごしましょう。幸い戦闘に関しては問題なさそうですし、今C.D.は人材不足ですから。もしかしたら頭が混乱しているだけで案外すぐ戻るかもしれませんしね」
確かにこのままこの国に放り出されるよりはここで働いた方が情報が多そうだ。元々俺が戦闘をする職に携わっていたなら尚更だ。そこから記憶が戻るかもしれない。
そういえば結局シンフェルシアについて聞く機会を逃してしまった。今聞いてもいいが……また変に思い出して頭痛に襲われるのも嫌だ。
「そういえば――なんとお呼びしましょうか。さっきの様子だと、自分の名を呼ばれると頭痛がするようでしたが」
結構難儀だよなあ。慣れて行くしかないんだろうけど。
「では……ネージュ、というのはどうでしょう。俺が元いた国では、貴方の名前の単語をそう呼んでいました」
「サガミ……だっけ?」
「相模 雪――」
その名前を聞いた時、先程クロードに名前を呼ばれた時とは比べものにならない目眩と頭痛が俺を襲う。
ああやっぱりダメだ。忘れなくちゃ。忘れなくちゃいけない。こんな名前覚えてても何にもならない。そんな自分の声が頭の中をぐるぐる回る。
「……ネージュにしましょうか」
「うん……じゃあそれで……」
頭痛に耐えながらなんとか答える。その時にはもう既に自分の本当の名前の音の羅列を思い出すことができなくなっている。
最初のコメントを投稿しよう!