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夢を見るのはその世界にまだ未練があるからなのだろうか。たかだか夢の話ともいうが、俺は最近夢を笑いごとでは済ませなくなっている。毎日見るのはあの世界の夢だ。
幻想世界トリストヴァレイ。それがその世界の名前だった。こっちでいう【地球】みたいな物だろう。こちらの世界では宇宙というのもあるらしいから、その宇宙が別世界に繋がっているのかもしれない。
何考えてんだろ俺。どうせもうあの世界は無いのに。この世界と融合しかけ、消滅してしまったから。そうだ、ない。もうあの世界は、あの世界にいた彼らは。
「雪さーん!」
そんな声に自分の意識が戻ってくる。今何時、と思いはっと時計を見ると午前十一時。約束の時間だ。顔面蒼白になり急いで身支度をすませドアを開ける。
「ごめん! 考え事をしてたらこんな時間で――」
扉を開けるとその人物はくすくすと笑い、「寝癖ついてます」といつもの調子で俺の髪を触った。参ったな、と心の中で苦笑いする。
白い長い髪に蒼い瞳の少女は、あの世界とは違い普通の人間だ。生まれて十五年もすればあの頃より大きくなる。仕草もあの世界の彼女より外見相応というかより女の子らしいというか。
でもたまに。ごくたまに、あの子が恋しくなる。贅沢な願いだとは知っているけれど。
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