3人が本棚に入れています
本棚に追加
罰が当たったのかもしれない。この世界で満足していない罰が。満足してなかったわけではないんだと言い訳する。ただ、俺だけがあの世界を覚えていることが嫌だっただけ。俺だけがあの世界を覚えている。いつの日か、すべて夢だったように感じる日がくるのが怖いだけだ。
あの世界は確実にあった。それだけは揺らがない事実であって欲しい。そう思っただけ。次に目を開ける時はすべて受け入れるから、今はもう少し寝かせて欲しい。正直彼女には言えなかったけど寝不足もある。
もう少し。もう少しだけ。
【仕方ないなあ】
「ここは危険です! 早く起きてください!」
声が聞こえた。彼女ではない女性の声。必死に起こそうと揺り動かされているようだ。だがもう少し寝かせて欲しい。
あれ? ……その前に俺は『誰』だ? さっきまでは覚えていた。さっきまでは。俺の名前は――。
「た、隊長! イリーガルは視認出来てませんが一般人が現場の路地で寝てるんですけど!」
隊長? ああ、これは夢か。あの頃の夢。またいつもの夢だ。あの頃? いつもの? いつの?
「あ、櫻庭隊長、起きました! はい、保護します!」
赤い髪に黄緑色の瞳を持つ少女は通信を切ってから俺に向かいなおり、言い慣れているかのように言葉を発した。
「Le chasseur du dmon(レ・シャスール・ドゥ・デモン)本部隊員のユウイ・メシアズです! 近くにイリーガル反応がありますので安全なところへ移動します、ついて来てください」
レ……なんて? なんかすごい流暢な発音で言われたけど何? 反応? イリーガル? わからないことだらけだ。あと本当に自分の名前が思い出せない。俺の名前。父さんと母さんにつけてもらったであろう名前――。
父さんと母さんの顔や名前すら思い出せないけど、いたはずだ。父親と母親がいない人間は存在しないだろう。
最初のコメントを投稿しよう!