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俺がついてこないことに彼女は焦っているのか駆け寄ってくる。そして、「何してるんですか! 反応が赤のイリーガルなんです! そろそろ討伐隊が到着しますので、危険ですから――」
離れてください、と言おうとしたのだろう。その言葉は最後まで俺の耳に届くことはなく、耳をつんざくような雄叫びに遮られる。
何故かすぐに居場所はわかった。上だ。黒い狼のような動物が赤い瞳でこちらを睨みつけている。殺気だろうか。だが、それに動けなくなるようなことは不思議となかった。
俺と彼女が視界に入ったのか、黒い狼は俺たちに向かい飛びかかってくる。少女は自身の獲物であるらしい棍を手に取り、狼と対峙する。その手が震えているのがわかり、その棍を彼女から取り上げた。恐怖で力が入っていないのか、それはすんなりと彼女の手から離れる。
「ちょ、ちょっと――」
彼女は俺の手から棍を取り返そうと手を伸ばすが、それは簡単にかわすことができるものだ。
「あれ、倒していいんでしょ?」
「え、いや、あ――」
「いいから答えて! 死にたくないでしょ!」
少し強めの声で言うと、彼女は驚いたように肩を竦ませてから小さく頷いた。
「了解。これ借りるからね!」
そう言って彼女の肩を叩き棍を構える。まずはその辺に転がっていた小石を狼にぶつけ、奴の注意を自分に引きつける。狼は唸りをあげて俺に飛びかかってきた。単純そうで知性も低そうだ。これなら数分あれば片付く。
自分の行動であるはずのそれを、俺は自分の外側から客観的に見つめていた。
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