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「あ、これありがと。あれ、隊長さんに報告しなくていいの?」
俺が棍を返しながらそう促すと彼女は慌てて腕時計を操作し始めた。だが、その行動は「その必要はない!」という怒鳴り声に遮られる。俺はただ(うわぁ煩いなぁ)と思いながらその声の主を眺める。
長めの黒髪を結った、全身と右目を中心に包帯を巻いた忍装束の男。俺より幾分か背が低いが、黒い左目は荒々しい光を持っている。
「さ、櫻庭隊長! この人が――」
「あ、もしかして君の獲物だった? ごめんねー」
少女の言葉に被せるように言葉を放つ。すると、櫻庭隊長と呼ばれた男は「いや、部下を助けてくれて感謝する」と俺に頭を下げる。俺は俺でお礼を言われるとは思っていなかったので、「あ、いや。俺も彼女の武器勝手に使っちゃったし……しかも結構力任せに。多分それもう使い物にならないかも……」と急に自分でもわかるほどに声が小さくなった。
「これは……硬化した犬型イリーガルを棍だけで倒したのか? 魔法を使わず?」
「うーん、その魔法ってのがわかんないけど棍だけで倒したよ」
イリーガルと呼ばれた狼の体を調べながらそんなことをブツブツ言っている彼に、俺は横から声を掛ける。
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