王道の始まり

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じろじろと視線を感じたが、よく見れば、俺をちゃんと見ている奴は少数だ。 大半の奴等は見てすらいない。 その代表的な永塚に至っては時間が無駄だと感じたのか、本を読んでいる。 本当に好きだな、読書。 語彙だけが豊富になって、根本的な姿勢は何も変わらない。 去年からクラスメイトだから分かるが、大変永塚らしい趣味だ。 「……あー、じゃ、朝礼再開するぞ」 気だるげにホスト教師は教壇に立ち、言わされてるかのように嫌々と連絡事項を述べて行く。 何でもコイツは元々男子校行きを希望していなかったとか。 そりゃあ、俺が教師でも、男子校だけは行きたくない。 共学校……もしくは女子高が望ましい。 「――最後。全員に関わる連絡だ」 何時もなら終わるくらいの時間だったが、ホスト教師はやけに真剣に俺等生徒を見回した。 その様子に生徒達も、思わず戸惑ってしまう。 「今日、転入生が来ている」 たった一言だ。 それだけで、静まり返っていた教室が騒がしくなる。 「転入生? マジ?」 「可愛いのかなー」 「おいおい、もう彼氏は手一杯だぞ」 聞き取れた奴だけでも、奴等の異質さが垣間見える。 特に最後の奴。 「静かにしろ。それじゃ、転入生。中に入って自己紹介な」 ホスト教師の声で、教室のドアが開いた。 ガラガラとスライド式のドアが動き、転入生の姿が…… 「あ、えーと、椎名霞だ。よろしくっ」 ……ある界隈では所謂王道転校生と呼ばれるアレ。 アレが、教室に入ってきた。 テンプレのように周りはブーイング。 「何、あのマリモ」 「全然可愛くねー」 「新手の詐欺かよ。クーリングオフ効きますかー?」 またもや聞き取れた三番目の言葉はおかしい。 声からさっきの三番目の奴と同じじゃねーかよ。 「そう怒るな。くれぐれも仲良くしてやってくれ。そうならないと俺が面倒だからな。じゃ、一限目の現代文は前回同様自習だから」 軽く右手を上げて(手を振ったつもりか)、ホスト教師は退散していく。 取り残されたポツリと一人の王道転校生に止まないブーイング。 何やら王道転校生を主人公にボーイズラブな物語が始まりそうな予感…… ま、俺には関係ないから、どうなろうと知ったこっちゃないし、お好きにやってくれ状態なんだが。
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