1 case study さやかちゃんの場合

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「百合江ちゃん、三十回目のお誕生日おめでとう」   にやにやと嫌な微笑を浮かべた麻衣子が出社してデスクについたばかりの私に言い放った。 いつものように、全身ジルサンダーで武装して。 「ん? ありがと。わざわざ三十回目って強調して言う必要ある?」   嫌な微笑を貼り付けたまま、首を傾げる。 「百合江ちゃんをいじめる絶好のチャンスを私が逃すと思う? うふふ」   でたなドSめっ!  麻衣子とは学生時代からの付き合い。 お嬢で、私と共通点はほとんどないのに何故だか彼女に気に入られたのは、麻衣子にとって私はとってもいじめがいのある人間だという、意味不明の理由からだ。 「ええー? 百合江さん、三十歳になったんですかあ?」   芸術的なネイルアートが施された指先で巻き髪をくるくるさせながら、 さやかちゃんはナチュラルに驚いている。なんだよ、その演技。 「さやかちゃん。去年も全く同じようなセリフを全く同じ表情で言ってたよねえ?」   さやかちゃんはチラリと舌を出す。 「そうでしたっけ?」   麻衣子とはジャンル違うけど、さやかちゃんも。もう、なんかいいや……。 三十路最初の朝を爽やかに迎えたはずだったのに。 今日も元気にお仕事がんばります! と決意も新たにしたはずだったのに、神さまってやっぱりいないのかも。   ここ【有限会社SEASONS】はセレクトショップを運営している会社だ。 ショップと言ってもインターネット上のだけどね。 一応代表は私と麻衣子。 五年前にある事情で、新卒で入社した輸入雑貨の会社を辞めた時に、麻衣子に誘われたのだ。 .
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