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テニスの試合を見るように、麻衣子とさやかちゃんの顔を交互に見ていたら、
さやかちゃんが、馴れ初めの続きを話し始めた。
「一目惚れって初めてでしたし、そもそも自分から誰かを好きになったことがなかったんで、どうしていいかわからなかったんですけど」
視線があってから、慌てて走りさろうとする直ちゃんを見て、さやかちゃんは本能的に行かせたら駄目だと思ったらしい。
自分でも驚くべきスピードで直ちゃんに追いつき、直ちゃんの腕にぶら下がるように、捕まった。
「連絡先教えてくれるまで、離しません。って言ったんです」
ひゃー。聞いててドキドキしてきた。すごいよさやかちゃん。
「それが半年前のことなんです。
直ちゃんと出会った瞬間のことはうまく言えないですけど、全身にアドレナリンか駆け巡ったというか、体中が心臓になってドクンドクン脈打ってるというか、とにかく特別なことが起きたんだって」
うん。うん。わかるよ。アドレナリンね。
ん? 半年前?
「さやかちゃん、それから、付き合うまで半年もかかったの?」
「それが」
「百合江ちゃん。手負いの野生動物は警戒心が強いのよ」
「麻衣子、何? また野生動物の話?」
「手負いの野生動物はたとえ話だけど、三十分見てたでしょ?
直ちゃんの初対面の人間に対する人見知り。
人見知りは時間で解決できるけど、直ちゃんは根本的に警戒心が強いのよ」
あっそうか。ん? でも、最初にさやかちゃんに視線を送っていたのは直ちゃんだったのでは?
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