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中を見るように促されて、恐る恐る、さやかちゃんはページをめくった。
「いろんな絵が描かれてたんですけど、ほとんどは私にそっくりな女の子の絵でした」
ええっ! 驚きの展開だよ。でもそっくりって? どういうこと?
「さやかちゃんの絵じゃなくて?」
「日付が何年も前でしたからあり得ません。でも何冊も何冊もあるので、誰か私に似た人がいるんだと思ったんですけど」
うーん。謎だなあ。と考えこんでいると、さやかちゃんが続けた。
「『僕のミューズなんだ』って言ってました」
ミューズ? ギリシャ神話に出てくる芸術の女神だよね? 才能ある芸術家のそばにきて、祝福してくれる。私は恐る恐る、さやかちゃんに尋ねた。
「その人って実在するの?」
さやかちゃんはにっこり答えた。
「実在しません。直ちゃんの創造の産物です」
ええ? よくわからなくなってきた。私が困惑していると、麻衣子がにんまりして言った。
「頭の中だけの理想の女が現れて混乱したあげく、手に入るはずないと思っちゃってたのね?」
「要約するとそうかもしれません」
さやかちゃんによると、直ちゃんは仕事でアイディアが煮詰まったり、イマジネーションがわかない時は、ひたすらに絵を描くそうだ。なかでもミューズを描くとすっきりするらしい。仕事仲間にも認識されていて、女の子の絵を描いている時に誰かが、
「それ、山内さんのミューズですよね」
と言ったことから、絵の中の女の子はミューズと呼ばれていた。「あ、山内さん、今ミューズ書いてるからほっとこう」みたいな感じで、「ミューズ待ち」なんて言葉が横行していたらしい。
だから、さやかちゃんに初めて会った時ものすごく動揺したんだって。しかも連絡先まで尋ねられたのだから驚いた。
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