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「何かの罠だとしか思えなかったって言うんですよ。酷いですよね」
そう言いながらも嬉しそうなさやかちゃん。
さやかちゃんの熱心さに、罠ではないと確信して、会うようになってから、直ちゃんは創造の産物ではない現実の女の子のさやかちゃんのことが、どんどん好きになっていったんだって。
そして、まさかのさやかちゃんからの告白。
「でもミューズにそっくりな私を手に入れてはいけない気がしたらしいんです。」
なんでだろ? 神様に触っちゃいけないって感覚なのかな? 不可触の女神様って感じ?
「でも私がボロボロ泣きながらあんなことを言ったので、それまで考えてたこと全部ふっとんじゃったらしいです」
そりゃあ、好きな女にあんなセリフを言われたら常人なら理性は宇宙の彼方まで吹っ飛ぶだろうね。
「それから一番最近のスケッチブックを見せてくれたんですけど」
最近の物は全てさやかちゃんの絵。そっくりだけどはっきりと違いの分かる絵だった。
「それを見て、直ちゃんは私が直ちゃんを好きなように私の事が好きなんだって確信できました」
麻衣子が鮮やかに微笑んだ。
「大変だったわね。さやかちゃん」
「はい。でも今信じられないくらい幸せです。まだ、付き合って一週間しか経ってないから当たり前かもしれませんけど」
「それに百合江ちゃんにはいいお勉強だったんじゃない?」
「お勉強? なんかこの前そんなこと言ってたけど、どこらへんがお勉強なわけ?」
「さやかちゃんが百合江ちゃんより大人なのは、ちゃんと過去と自分自身と向き合って、自分の心のニーズを正しく理解している所よ!」
なるほど。確かにそうかも。あのままトランクルームを持ち続けていたら、さやかちゃんは生涯、直ちゃんに出会うことはなかっただろう。何の秘密もしがらみもない状態だからこそ出会えたのかもしれない。
「だから、百合江ちゃんも、もういい加減、自分を見つめ直してドMなのをしっかり自覚した上で自分にお似合いのドSの男を見つけなさいよ」
「私はドMなんかじゃない!」
「まあ。往生際が悪いわねえ」
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