1 case study さやかちゃんの場合

4/18
2073人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ
「百合江ちゃん会社辞めちゃうの? 営業やってたんだよね。私、やりたいことあるから、こき使ってあげるよ」   お決まりの黒い笑顔を浮かべた麻衣子に、引きずられて、飛び込んだ。 麻衣子の実家は不動産なんかも沢山お持ちのお金持ち。 彼女は生まれながらのお嬢様だ。 資本金は麻衣子のポケットマネー。 ただ絶対に頭を下げられない性格。 交渉ベタ。 クレームなんて絶対対応できない。 というわけで、自分じゃできないことを全部私がやってくれれば、やりたかったことができる。   そんな事を言ってはいたけれど、あのタイミングで申し出てくれたのは麻衣子の優しさなんだ。 実際には落ち込んでいた私を助けたかったんだろうと思う。   麻衣子は優しい。   我が儘だし、ドSだし、周囲の人々をブンブン振り回すし、正直微妙な発言も多いけれど、しんどい時にさりげなくナイスパスを送ってくれる。 まあ、ただの変態ドSだったら、十年以上も親友やってない。   あっ! 本人には「親友」だなんて言わないよ。 そんな事言ったら、私自身が人質にとられたようなもんになっちゃうから。   で、私はこの会社で営業諸々担当で、麻衣子はバイヤー。 麻衣子のセンスと、勘(動物的?)は天才的だと思う。   洋服、下着、コスメ、サプリメントにいたるまで 「これは、イケるわ!」と言ったものは確実に数をさばく。   インターネット上のショップなわけだし、雑居ビルの一角とはいえ、何も家賃の高い銀座にオフィスを構えなくても。 と私は思ったのだけど、麻衣子は会社の所在地にこだわった。 購買ターゲットが地方在住のOLだから、会社が銀座にあるというだけで、ブランドイメージが保てると言ったのだ。 確かに一理あった。 東京生まれ東京育ちの人間や、なんちゃって江戸っ子には分からないかもしれないけど、地方在住の人間には「銀座」という街は、テレビにたまに出てくる、実在するらしいけど、行ったことも行くこともないだろうなあ。 というほとんど架空のファンタジーに近い街だ。 実際地方から東京に進学で上京した私も、社会人になるまでこの街に踏み入れる機会はほとんどなかった。 なんとなく敷居が高かったんだもん。 .
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!