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「百合江ちゃん会社辞めちゃうの? 営業やってたんだよね。私、やりたいことあるから、こき使ってあげるよ」
お決まりの黒い笑顔を浮かべた麻衣子に、引きずられて、飛び込んだ。
麻衣子の実家は不動産なんかも沢山お持ちのお金持ち。
彼女は生まれながらのお嬢様だ。
資本金は麻衣子のポケットマネー。
ただ絶対に頭を下げられない性格。
交渉ベタ。
クレームなんて絶対対応できない。
というわけで、自分じゃできないことを全部私がやってくれれば、やりたかったことができる。
そんな事を言ってはいたけれど、あのタイミングで申し出てくれたのは麻衣子の優しさなんだ。
実際には落ち込んでいた私を助けたかったんだろうと思う。
麻衣子は優しい。
我が儘だし、ドSだし、周囲の人々をブンブン振り回すし、正直微妙な発言も多いけれど、しんどい時にさりげなくナイスパスを送ってくれる。
まあ、ただの変態ドSだったら、十年以上も親友やってない。
あっ! 本人には「親友」だなんて言わないよ。
そんな事言ったら、私自身が人質にとられたようなもんになっちゃうから。
で、私はこの会社で営業諸々担当で、麻衣子はバイヤー。
麻衣子のセンスと、勘(動物的?)は天才的だと思う。
洋服、下着、コスメ、サプリメントにいたるまで
「これは、イケるわ!」と言ったものは確実に数をさばく。
インターネット上のショップなわけだし、雑居ビルの一角とはいえ、何も家賃の高い銀座にオフィスを構えなくても。
と私は思ったのだけど、麻衣子は会社の所在地にこだわった。
購買ターゲットが地方在住のOLだから、会社が銀座にあるというだけで、ブランドイメージが保てると言ったのだ。
確かに一理あった。
東京生まれ東京育ちの人間や、なんちゃって江戸っ子には分からないかもしれないけど、地方在住の人間には「銀座」という街は、テレビにたまに出てくる、実在するらしいけど、行ったことも行くこともないだろうなあ。
というほとんど架空のファンタジーに近い街だ。
実際地方から東京に進学で上京した私も、社会人になるまでこの街に踏み入れる機会はほとんどなかった。
なんとなく敷居が高かったんだもん。
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