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遼一君は私がUNITEに来るようになった頃は、学生のアルバイトでここで働き始めたばかりだった。人なつっこい性格で心配りが効く、会話の反射神経がいい子なので、あっという間に常連さんたちのマスコット的な存在になった。麻衣子をここに連れてきたのは、私がUNITEに通うようになって半年が経とうという頃だった。
「そろそろ課題がこなせてるか、百合江ちゃんが通っているバーに行ってみたいわね」
そんな事を言われたのだ。
その時に、麻衣子と遼一君は出会った。あの時の麻衣子のセリフは、いまだに耳にこびりついている。
「まあ、仕事以外で百合江ちゃんが役に立つ日がくるなんて。うふふ」
「え?」
私の頭の中はクエスチョンマークだらけだったけれど、ほどなくあのセリフの意味が分かった。遼一君は麻衣子の、どストライクだったのだ。そして、挨拶もそこそこに遼一くんにこう言った。
「遼一くん、私とお付き合いしない?」
「はあっ?」
私はすっとんきょうな声をだした。当時まだバーテンダーもしていたオーナーのテルさんは、磨いていたワイングラスをシンクに落とし、綺麗に割れた高いグラスの破片で危うく手を切りそうになっていた。
普段は騒がしい他の常連さんたちも唖然とし、そして、遼一君は……。笑顔を引きつらせてフリーズしていた。
どれぐらい、みんな黙っていたのかわからない。
音楽だけがいつものように大音量で流れていた。マーヴィン・ゲイの『What's going on』が。
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