3 case study 麻衣子の場合

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二週間もする頃には、私の目にも遼一君が落ち着きを無くしているのが分かった。そうこうしているうちに、二ヶ月がすぎ、麻衣子は遼一君にこう言った。 「私、明日からここに来ないけど、あなたはそれでいいのかしら?」 「困ります!」   0コンマ何秒あったろうかと考えるほどの即答だった。 遼一君は堕ちた。 かくして麻衣子の百夜通いは終了した。確かに、百日もかからなかったから、百夜通いとは言えないかもしれないけど。私は遼一君に後から、色々聞いてみた。 「だって、あんな完璧に調和のとれた、綺麗な大人の女の人にいきなりあんなこと言われたら、からかわれてるか、遊ばれちゃうと思うじゃないですか」   大人の女の人か。ハタチくらいの男の子にしたら、二十五歳は大人になっちゃうか。ましてや麻衣子だし。   完璧な調和。   麻衣子は十人いたら、九人は振り返る美人だが、それだけが麻衣子の魅力ではない。170センチを越える身長、スレンダーなスタイル。そしてそれらを活かせるセンス。首が隠れる位の前下がりのセンターわけのボブにあの眼鏡。ジルサンダーの洋服。背が高くてもためらう事なく履くかかとの高い靴。   麻衣子は自分に何が似合うか熟知している。 「それに、あの香り。初めて会った時、クラクラしました。ぼーっとしてたら、いきなりあんなこと言うし」   麻衣子の香水はディオールのプワゾン。「毒」の名前を持つそれは麻衣子にぴったりだ。 つける人を選ぶ香水だと思う。ふくよかでスパイシーでエキゾチックな香り。大人の女の香り。麻衣子はいつも、ほんのりそれをつける。 .
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