3 case study 麻衣子の場合

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こうして、麻衣子と遼一君のお付き合いが始まった。麻衣子の無言の百夜通いは遼一君が一人でここまで考え抜いて結論を出すと分かっていて、やった事のような気がする。   麻衣子、やっぱりアンタ、恐いよ。   お付き合いが始まってしばらくすると、遼一君は幸せそうに満面の笑みを浮かべてこういった。 「今は麻衣子さんの全てが僕のものだって思えます。僕の全ても麻衣子さんのものですけど」   文字化すると語尾に音符がいっぱい浮かんでそうな弾んだ声でそう言った遼一君を見て、男の子でも恋しちゃってルンルンになれるんだなと思って、微笑ましかった。ホレた男にこんな顔させて、ここまで言わせる麻衣子はすごいと思った。 それから、遼一君は大学を卒業してから、そのままUNITEで働くようになり、今年五十五歳になったオーナーのテルさんがもうそろそろバーテンダーは引退したいということで、遼一君が雇われマスターになった。   就職についてはかなり悩んだらしい。 「麻衣子さん、僕が本当に好きなことをやればいいって言ってくれましたし、万一、先々のことを考えて悩んでいるなら、私の家は私が選んだならハウスハズバンドでもいいんだから、気にするなって言われました」   大学卒業したばかりの男の子が結婚を視野に入れてるとは。まあ麻衣子の家は資産家にしては一風変わっている、以前麻衣子からこんな事を聞いたことがある。 「穀潰しのじい様のおかげで、かあ様もおば様たちも恋愛して結婚してるから、うちは子種があって婿養子にさえなれるなら結婚相手は好きに選んでいいのよ」   なんでも、麻衣子の家は男の子があまり生まれない家系で、そういう時はしかるべき相手を婿養子に迎えていたそうなのだが、麻衣子のおばあ様の夫、麻衣子に言わせると『穀潰しのじい様』は最悪だったらしい。 .
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