4 サンプルの恋人

14/24

722人が本棚に入れています
本棚に追加
/24ページ
気づくと週末になっているのは、仕事が充実しすぎているせいだろうか?  職場恋愛(?)にもかかわらず、今までと大差ないウィークデーを過ごしている。少し変わった事と言えば、石崎君からプライベートなメールが来るようになった事くらいだ。 忙しいけれど、週末くらいは一緒に過ごしたいと言う彼の気持ちを尊重して、私は石崎くんを誘ってUNITEにやってきた。これだと、尊重と言うよりは、単に自分の日常的行動パターンに付いてきて貰っているだけかもしれないけれど。遼一君が、いつもの笑顔で迎えてくれる。 「こんばんは。百合江さん。あっ石崎さんも一緒ですか?」 「うん。カウンター空いてる?」   遼一君は空いてる席を視線で促した。UNITEに来るのが初めての石崎くんは、ぐるっと店内を見渡してから、目を細めてカウンターに座った。興味深そうに私たちの顔を見ながら、遼一君が聞いた。 「何にしますか?」 「ハイネケン。石崎君は?」 「じゃあ。俺も」   遼一君はよく冷えたグラスを持って、ビールサーバーへ移動した。飲み物を待っていると、石崎君が眉間に皺を寄せた。 「百合江。また、名前で呼ばなかったろ?」 「うっ」   今日ここに来るまで、何度も言われたのに、またやってしまった。でも、名字で呼びなれているだけになかなか違和感が消えない。   なんかこう。くすぐったいかんじ? 「ごめん」 私がそう言うと石崎くんは黒い笑みを浮かべてこう言った。 「俺の名前は?」 「健吾」 「もう一回」 「健吾」   そして「石崎君」と言ってしまったら、必ずこうして、言い直しをさせられた。   もうこれ、今日、四回目。   いいんだけどさあ。なんかさあ? ちょっと、犬のしつけっぽくない? .
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

722人が本棚に入れています
本棚に追加