4 サンプルの恋人

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部屋の前まで来るとぴったりのタイミングで健吾がドアを開けた。ワインレッドのトップスに黒いデニムに初めて見る休日仕様の無造作な髪型。 赤とか着るんだね。ちょっと意外だけど似合ってる。部屋の中から何かいい匂いがした。 「なんかいい匂い」 「ああ、昼飯作ってたとこ。まあとりあえず入って」   へえ。健吾って料理するんだ。   料理ができる男の人っていいよね。便利って意味じゃないよ。   こっちが手の込んだもの作っても料理しない男の人って、工程を知らないから、なんとなく、作り甲斐ないんだよね。   出して、食べて、感想を無理やり気味に聞いて終了。みたいな。   その点、料理ができる人は食事ひとつで会話が広がる。   これには何が入ってるかな? とか、家でも作れるかな? とかね。 「そこ座ってて」   キッチンへ入ると、そう健吾にダイニングテーブルへ促された。キョロキョロと当たりを見回す。洗剤とか、鍋とかフライパンの置き方を見て、日常的に料理をする人のキッチンだなと思った。 「手伝おうか?」 「ん? もう終わったからいい」   と、健吾はエビの入ったクリームパスタとサラダを差し出した。 「とりあえず食べよう。俺腹減ってるし」   お皿を並べると、食事を始めた。 「健吾が料理できるなんて、なんか意外」 「ああ。俺は母さんの『今時、男でも、なんでもできないと嫁がこない』という方針のもとで育てられたからな」   へえー。ユニークなお母さんだな。 .
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