4 サンプルの恋人

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金曜日の朝、麻衣子が、私の逃げ場を断つ、とどめの一言をくれた。 「金曜日くらい、残業ナシで帰るわよ! 百合江ちゃんは今日は石崎とデートだし」   まあ予想はしていたけれど。仕事していたいです。と言えるはずもなく。麻衣子の予告通りに定時で仕事が終わった。 「安西さん、開演時間まで、そんなに時間がないので急ぎましょう!」   そう石崎君が言うので、オフィスを出てから、小走りで一番近い大通りに出ると、なすがままにタクシーに乗り込んだ。   よく考えてみたら、石崎くんと仕事以外の話ってしたことないなあ。などと考えていると、石崎くんが、ポケットから、チョコレートを出した。 「ライブが終わるまで何も食べれないとつらいですから、これ食べて!」 「ああ。そうだね。ありがとう」   ちょっと驚いた。石崎くんとチョコレート。なんかミスマッチじゃない? でも気が利くなあ。二時間以上は何も食べれないもんね。包み紙を開いて、口に入れた。 「甘い。美味しいね。これ」   自分も一つ口に入れた石崎くんはニッコリ笑った。 「よかった。ちょっとは緊張ほぐれたかな?」   いや。初めて見る石崎くんのナチュラルな笑顔のせいで、なんか余計に緊張しますけれども。あの仕事用の営業スマイルはあくまでも仕事用なんだね。タクシーは数寄屋橋交差点を抜け有楽町へ入った。窓の外を眺めると見慣れた建物の灯りが夜の装いになっている。 「有楽町ってこんなに銀座に近いのに、山手線の近くって、一気にオヤジ臭くなるよね?」 「ガード下のせいなのか、サラリーマンの密度が高くなりますね」   なぜテレビのリポーターがインタビューするサラリーマンはいつも新橋の酔っ払いなんだろう?  そう言えば、高校生の頃、全国で一番ぶっ飛んでる渋谷の女子高生を日本の女子高生のスタンダードみたい思われたら、なんか困ると思ったな。 そんなくだらない事を考えていたら、タクシーはあっという間に東京国際フォーラムについた。開演時間まであと二十分なので、ゆっくり会場入りできる。 .
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